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東京地方裁判所 昭和28年(ワ)536号 判決

原告 都染紡績株式会社

右代理人 双川喜文

被告 統計印刷株式会社

右代理人 坂本英雄

主文

被告は原告に対し金二百九十万四千五百四十三円及びこれに対する昭和二十八年三月一日以降支払すみに至る迄年五分の割合による金員の支払をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は原告に於て金七万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

理由

訴外白浜糸店の代表取締役白浜静彦が昭和二十七年五月頃訴外婦女界出版株式会社の取締役社長と称し雑誌婦女界の編輯兼発行人として同年十一月号まで同誌を経営していたことは当事者間に争なく証人吉野一雄の供述及これにより成立を認める甲第五号証の記載を綜合すれば訴外白浜糸店が同訴外会社振出の約束手形で、原告主張の如く、雑誌婦女界の印刷並紙代金を被告会社に支払い、全部入金ずみとなつた事実を認めることができる。証人三井貞二被告本人の供述中右認定に反する部分は前認定に引用した各証拠に照し信用しない。他に右認定を覆し別表第一、五、六、八、九の各支払が訴外白浜糸店の被告会社に対する債務の支払のためになされた事実並に内金五十万円は約束手形が不渡のため入金しなかつたとの被告主張の事実を認めるに足る証拠は存しない。

そこで訴外白浜糸店の右弁済がその目的の範囲内の行為であるかどうかにつき判断する。成立に争のない甲第二号証の記載によれば右訴外会社の目的とするところは一、糸及繊維製品の販売並に受託販売、二、右に附帯する一切の業務」であること明白である。かような事業を目的とする会社が自己の営業と直接関係のない出版社の用紙、印刷代金の支払をなすが如きは特段の事情の認むべきもののない限り、目的の範囲外の行為であると認むべきこと多言を要しないところである。右弁済当時訴外白浜糸店と訴外婦女界とが代表取締役を共通にしていたことは当事者間に争ないところであるが、この故に右両会社は一心同体不可分な関係にたつものと即断することはできない。被告の提出援用の全証拠によるも未だ右事実を認めることはできない。他に前記特別事情に当る事実の主張立証のない本件においては、訴外白浜糸店が婦女界の債務を何等の代償をも取得することなく第三者として弁済することはその目的の範囲外の行為であると認定する外はない。被告は本件支払いがいずれも約束手形でなされたところから約束手形の振出行為は広く法人の目的の範囲内の行為であると主張するけれども、原告が本訴において無効を主張するところのものは手形振出の原因関係であつて、弁済そのものであるから被告の右主張に対する判断は省略する)

以上認定の次第で、被告は原告主張の金員全額を法律上の原因なくして訴外白浜糸店の損失において利得したものと謂はざるを得ない。

而して原告が訴外白浜糸店に対して三千万円余の売掛代金債権を有し、糸店の支払能力に鑑み之が保全の要あること、並に訴外白浜糸店が被告に対し本件不当利得返還請求権を行使しない事実は証人吉野一雄、同藤本正雄の各供述及これにより成立を認める甲第四号証の記載により明らかである。

よつて原告の請求は正当であるからすべて之を認容することとし(但、法定通用貨幣の関係上円以下は切捨てることとする)訴訟費用負担につき民事訴訟法第八十九条、仮執行の宣言につき同法第百九十六条第一項を各適用し主文の通り判決する。

(裁判官 満田文彦)

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